照度計の選び方(職場・工場・学校編):JIS規格のA級、AA級って何?
「労働安全衛生基準」とか「衛生基準」という言葉を聞いたことがありますか?
職場や事務所、工場や学校などの環境(換気、保温、採光、照明、騒音等)で働く人にとって安全に働いたり、過ごせるように一定の基準が設けられています。
衛生管理者は、勤務先から取得を勧められて免許を取った方が多いと思います。
また、既にご存知の方もおられるかもしれませんが、蛍光灯の製造は2027年末までに終了します。蛍光灯をLED照明に切り替えておられる職場も多いと思います。
衛生管理者は、LED照明に切り替えた後具体的に何をすればいいのでしょうか。
- 明るさとか照度との違いが理解できない。
- 照度計の選び方がわからない。
職場や学校等で衛生管理者にはなったけれども、何をしていいかわからないという方に向けて、明るさや照度と、照度計の規格(A級、AA級)等、照度計の選び方について解説します。
蛍光灯からLEDに変わっても基本的なことを押さえておけば環境測定の方法は同じです。
照度とは?
照度の前に、そもそも照明の目的は何でしょうか。
照明とは各種の光源を利用して特定の場所を明るくすることで、物を明瞭に見せ、安全を保ちつつ、効率よく仕事を行えるような環境を作り出すことが目的です。
機能的な面だけでなく、照明には快適さや楽しさ、心の豊かさも大事です。
家の明かりをすると見るとホッとする、という経験は誰もがしています。
明るさと雰囲気、その両方を考えて調整された照明が理想です。
照度は明るさの表現方法
同じ照明を見ていても、明るいとか薄暗い等、人によって表現が異なります。
人の感覚に依存する表現では、同じ場所にいてもAさんは薄暗いと感じ、Bさんには明るく感じられるということはよくあります。
明るさ、暗さをどうやって決めたらよいのでしょうか。
明るいとか薄暗いとか感覚的な表現ではなく客観的な数値で表現をする必要があります。
明るいとか暗いとかの感覚は光によってもたらされています。
人の目に入射した光が網膜を刺激して明るいとか薄暗いとかを感じるわけです。
この人の目の感覚(感度)を加味した明るさの量を数値化し、定量化した数値を照度と言います。
照度の定義
「照度」とは、着目した面がどれだけ明るく照らされているかの度合いを示すもので、その面の単位面積(m2)当りに入射する光束(ℓm)で定義されています。
照度の単位は、その定義から(ℓm/m2:ルーメン毎平方メートル)という単位になります。
一般的にはルクス(ℓx)で表わします。ラテン語のlux(光)が語源であることから、単位記号は全て小文字(ℓx)になります。
照度の目安
晴天の郊外の直射日光の照度は約10万ルクス、満月の夜は約0.2ルクス、月のない闇夜は0.007ルクスと自然光による照度は、極めて広い範囲にわたります。
測定した照度の数値が正しく測れているかの一つの目安になります。
なぜ照度計測は必要か?
人が多く集まる学校や職場、工場等では、健康的で安全な環境を維持するために、守るべき「労働安全衛生基準」が定められています。
学校での照度計測は必要?
児童生徒等の健康を維持し、学習能率の向上を図るため文部科学省は、学校保健安全法で「学校環境衛生基準」というものを定めています。この基準の中で、騒音や水質、採光や照明について定めています。
検査項目及び基準値の設定根拠等
検査項目 | 基準 |
照度 | (ア) 教室及びそれに準ずる場所の照度の下限値は、300 lx(ルクス)とする。また、教室及び黒板の照度は、500 lx以上であることが望ましい。 (イ) 教室及び黒板のそれぞれの最大照度と最小照度の比は、20:1を超えないこと。また、10:1を超えないことが望ましい。 (ウ) コンピュータを使用する教室等の机上の照度は、500~1000 lx程度が望ましい。 (エ) テレビやコンピュータ等の画面の垂直面照度は、100~500 lx程度が望ましい。 (オ) その他の場所における照度は、工業標準化法(昭和24年法律第185号)に基づく日本工業規格 Z 9110に規定する学校施設の人口照明の照度基準に適合すること。 |
「学校環境衛生基準」の理論と実践[平成30年度改訂版]から図表抜粋]
照度の検査方法も定められています。黒板や教室の測定位置や床面からの高さ等についても定めがあります。検査の頻度ですが、毎学年2回定期に検査を行うと定められています。
ちなみにこの学校環境衛生基準は、文部科学省が定める「学校」に適用されます。
「学校」とは、幼稚園(幼稚園型認定こども園を含む)、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校です。専修学校及び幼保連携型認定こども園にも基準は準用されます。
これに対し、学習塾や予備校もしくは各種士業の受験対策の学校は、文部省が定める「学校」には当てはまらないため、学校環境衛生基準を満たす必要はありません。
職場・工場・事務所でも照度計測は必要?
職場の問題はそれぞれの事務所で定めれば良いと思われがちですが、労働者にとって働きやすい環境を確保するという主旨で労働安全衛生法という法律があり、この法律に基づいて労働安全衛生基準を厚労省が定めています。
この法律は高度成長の真っ只中の1972年にできた法律です。
経済成長に伴って労働災害も多くなった時期であり、この法律は労働者が職場で働く上で安全・健康に働けるよう、職場環境を快適なものにするために制定された法律です。
この法律に基づいて、労働者が50人以上の事業に関しては、衛生管理者の選任・衛生委員会の設置などが義務付けられています。
労働安全衛生基準というのは実に多岐にわたっていて、職場や事業所など働く場所で確保するべき照度や明るさなども明確に定められています。
令和4年にこの衛生安全基準は一部改正されました。事務所に必要な最低の照度基準が引き上げられました。
「一般的な事務作業」については300ルクス以上、「付随的な事務作業」については150ルクス以上であることが求められます。
これらの照明設備について、6ヶ月以内ごとに一回、定期的に点検しなければならない。ということも労働安全衛生基準法に規定があります。
これらの基準を満たした上で、日本産業規格JISZ9110というものを経済産業大臣が定めており、各種作業における照度等を定めて健康を維持するように推奨しています。日本産業規格JISZ9110の参考資料はこちらです。
JIS(日本産業規格)については法律ではなく、あくまでも参考値の位置づけです。これに適合しないからと言って、罰則もありません。
労働安全衛生基準に関しては、法律に基づいたものですので、個々の事務作業に応じた最低限の照度を確保する必要があります。規定値を下回ってしまうと、事業者に対して罰則の措置が取られる場合もあります。
ちなみに労働安全法に違反した事業者には6ヶ月以下の懲役または50万円の罰金となります。
労働安全衛生法違反で送検された例は色々とあります。適切な環境を準備しなかったとしてすぐに送検されるという事はまれだとは思いますが、工場や廊下での転倒事故による労災は、職場に高齢者が増えているため、近年問題になっています。
このようなわけで大多数の企業や学校、事務所、工場などでは、働きやすい職場や学びやすい環境を確保するという意味で、定期的に明るさを測るということが必要なのです。
照度計とは
照度計は、机上や室内の床・壁面、外灯などの明るさを測定し、”人が見た時の明るさの感覚量”を「照度」として数値化する計測器です。
照度計の動作原理
簡単に例えると、照度計は「光の量を測るコップ」のようなものです。光を受け取る部分(受光部)があり、そこに光が当たると、その光の量に応じて電気信号に変換されます。
この仕組みは、太陽光発電パネルの原理と少し似ています。太陽光パネルが光を電気に変えるように、照度計の受光部も光を電気信号に変換するのです。
照度計の特徴的な点は、人間の目の感度に合わせて設計されていることです。人間の目は、緑色の光に最も敏感で、赤や青の光にはそれほど敏感ではありません。照度計も同じように、緑色の光に最も反応するよう調整されています。
斜入射光特性とは
斜入射光特性とは、照度計が斜めから入射する光をどのように測定するかを表す特性です。
この特性は、照度計の精度と信頼性に大きく影響します。
測定面に垂直に入射する方が照度は高くなります。
照度計の理想的な斜入射光特性は、光が斜めから入射する場合、その照度が入射角のコサインに比例して減少する(コサイン特性)ことを意味します。
実際に多くの照度計では、理想的なコサイン特性により近づけるために、受光部に半球状の拡散透過部材を被せた構造を採用しています。
日本産業規格(JIS)でも、照度計の等級クラス分けに、この斜入射光特性を評価しています。これにより、照度計の性能を客観的に判断することができます。
斜入射光特性が適切でない場合、特に光源が測定面に対して斜めにある場合や、反射光を測定する場合に、計測に誤差が生じる可能性があります。
照度計を使用して作業面や空間の照度を正確に測定する場合は、この斜入射光特性を理解し、測定対象の光の入射角度を考慮して適切な測定をする必要があります。
照度計のJIS規格とは?
照度計は光計測器として唯一JIS(日本産業規格)でJIS C 1609(照度計)として規格化されています。
JIS照度計の階級:A級とAA級の違い
JIS規格では照度計が4段階に分類されています。一般計の中でもA級とAA級の差は、測定の信頼性にあります。
AA級は、労働安全衛生基準や、学校環境衛生基準等の基準・規定の適合性評価など、照度値の信頼性が高く要求される場の照度測定に用います。
A級は、実用的な照度値が要求される照度測定に用います。
精密級は、高い精度が求められる照度測定用で、大学や企業の研究機関等で、光学実験に用いられます。
照度計の選び方
照度計は、使用目的から信頼性のある機器を選ばなくてはいけません。しかし、価格を見ると、数千円から数十万円までの幅があります。通販でもお手軽に購入できるものもあります。
どうやって選んだらよいのでしょうか。
これは低照度の道路照明0.5LXから手術室の無影灯(160000LX)まで測定する対象が多岐にわたっており、どこを測定するのかによって、必要とする照度測定範囲や測定精度が異なってくるからです。
ですから、測定の目的と測定対象も適合した性能をもつ照度計を選びましょう。
具体的には以下の3つのポイントを考えましょう。
1)JIS一般形A級またはAA級準拠
学校環境衛生基準や、労働安全衛生基準での要求されている精度基準を満たしているでしょうか。海外からの輸入品などではJISの規格を満たしていないものがあるので注意しましょう。
2)測定範囲
事務所の室内や、共用廊下、学校の教室や廊下、プール、体育館など、様々な場所で使用できるよう、0~50,000ルクス程度の広い測定範囲をカバーできるものが望ましいでしょう。測定範囲を自動で調整してくれる機能があると更に使いやすいでしょう。
3)コンパクトで軽量
色々な場所を場所で、多地点計測しなければならない場合が多いため、持ち運びやすく、扱いやすいサイズのものが適しています。
適合性の評価に使われることを念頭に、測定結果を一時的に保持できるデータ保持機能がある機種があります。
一見便利そうですが、測定後にPCに本体を繋いでデータを出力したり、出力したデータを、別の提出用フォーマットに書き写したりする手間は変わりません。
当社のラインナップで学校環境衛生基準の測定や事務所や工場等、労働安全衛生基準の測定に向いているのは、こちら『照度計IM-600シリーズ』
照度計IM-600シリーズは、LED照明でも安定して測定ができる機能がついています。
また、通常の照度計は測定を始める前に、受光部にキャップをして光がない状態を”ゼロ”として覚えさせる「ゼロ調整」という手間が必要になります。これを行わないと、”ゼロ”値が異なってしまい正しい測定値が表示されなくなってしまいます。
ですが、半年に一度しか行わない計測では、こういった細かい手順は忘れがちです。
当社の照度計IM-600シリーズはキャップ無しでも電源を入れれば自動で「ゼロ調整」を行いますので、どなたでも簡単かつ正確に照度の計測ができるようになっています。
まとめ
照度や明るさ等、確保されていて当然だと思っている方も多いと思います。
しかし「明るさ」は、環境整備の中の大きな要素として考えられており、職場や学校などでは、基準に従って、目立たない地道な努力が続けられています。
半年に一度というのは衛生管理者の方にとっては、大変手間のかかる作業ではあると思いますが、職場や工場、学校で、適切な作業環境や学びの場を維持するためにも、照度測定というのを是非継続していただきたいと思います。